最初の爆発が起きたのは、モニタ上のマークが味方と敵をはっきり示してから二分後の事。自分も含めて動けずにいたが、その中の一機がゆっくりと姿勢を変えて右手に持つアサルトライフルの銃口を隣のKMFへと向ける。いつもであればペイント弾が装填されている、それが全員の共通認識であった。まさにそこが盲点という事に気づけた者がいただろうか……。
戦闘・・・死。すぐに動けた人間が何人いるのだろう。まるでさび付いた鉄のように、体が硬直し震え固まる。すぐ近くで爆発したはずなのに、その音すら耳には入らない。破壊されたKMFから立ち上る黒煙、舞散る残骸。
その中には、KMFに乗っていたであろう訓練生の残骸もあったのだろうか。などと考える思考と同時に無理矢理にでも体を動かそうとする本能が、錆びた骨の悲鳴をあげる体を無理矢理に動かし気体を操縦する。ランドスピーナーの性能上真横への水平移動は不可能である。
咄嗟に左のスピナーだけを前転させ機体の向きをかえ、今まさに向けられている銃口の斜線上から外れる。
明確な爆発音、自分の機体の後方で爆発し生まれた新たな残骸。周囲の機体数が表示されるモニタに目をやると、最初に破壊された二番、先程後方で爆発した十四番。そして新たに破壊された十三番の機体マークが消失している。
「はぁ……はぁ……」
先程よりは落ち着いてはいるが、それでも動揺は拭い去るには至っていない。
次々に聞こえる銃声や打撃音、ランドスピナーの咆哮を聞きながら汗ばみ冷たくなった両手で操縦桿をぎゅっと握る。無機質な質感と、妙に手に馴染むつくりのそれをひたすら強く握る。フラッシュバックするのは、大切な人を失った悲しみ、なぜか顔を思い出せない失ったその人を思う。
大切な家族を奪った黒い影。全身黒に統一されたそれが振り向き、目と目が合わさる。
あなたは――!?
「いやああああああ」
外部スピーカーになっていた事も知らず、ひたすら叫んだその声。モニター越しに映る周りの機体の動きが一瞬だけ静止する。
「……ぉ、……ぃ」
世界の全ては暗転し、目の前にはフラッシュバックした黒い人物が映し出され、その口からは無意識に小さく声を繋ぐ。過去の記憶をほとんど失った中で思い出すその人物が、現実にあったからなのかそれとも想像の産物か、銃口をこちらにむけて右手の人差し指をトリガーにかける。ぎりぎりと鳴るトリガーが引かれる音、その音を感じたと同時に即座にKMFを前方へと突進させた。銃口をはずすように蛇咬しながら、自分の口から放つ咆哮と共に訓練機のサザーランドにも標準装備されているスタントンファを右手外側前方へ展開し、それを一気に黒い人影の頭へと一気に振り下ろす。
「この!このォォ!!」
頭部を叩いてもまだ動くそれに対し、今度は心臓部分目掛けて右手のスタントンファの先端を突き刺す。同じ様に展開させた左手のスタントンファと交互に何度も何度も突き刺す。やがて貫かれたその人物は少し間をおいて爆音と衝撃と共に爆散した。それによって受けた機体の損傷はわりと大きいが、今気にするべきはそこではない。
「まだ……まだこんなにぃる。うふふ、あはははは」
ピピっという音と同時に、周囲に落ちているKMF用のアサルトライフルがモニタに映し出される。戦闘開始時には持っていたはずの自分のアサルトライフルは、いつの間にかなくなっていたためゆっくりとした動きでそれを拾いに向かう。
その行動事態は隙だらけであり、格好の標的となりえるはずなのだがモニタでまわりを見ても攻撃してくる気配は感じられない。むしろ硬直していると言った方が正しいように感じる。
落ちているアサルトライフルを自分の機体の武装に設定し装着する。慣れた操作で弾倉《マガジン》を一瞬抜き弾数を確認する。まだ十分に弾が入っている事を確認するとすぐに装填させる。
直後に背後から聞こえてきたスキール音に反応するように、その場で旋回させ接近するKMFを前方に捉える。すでに向けられている銃口が火を噴き、連続で銃弾がこちらへと飛び込んでくる。すぐ様操縦桿を操作させ、KMFに回避行動をとる。後方に左右に蛇咬を繰り返しながら移動するものの、機体から伝わる振動により、その銃弾の内数発は機体に傷をつけられた事を感じ取った。
相手の攻撃は的確で、回避した方向へすぐ修正し無駄に弾を撃つことはしない。
しまった――っと思ったときには、アサルトライフルを持つ右腕関節部分が銃弾で貫かれていた。連弾を浴びせられた右腕は煙を上げると同時に爆散する。コックピット内の機体の状態を映すモニタにも、赤い点滅で示している。
どんな状況下でも冷静に判断、対処することが最善であるという教官の教え通り、右手を失ったリーフェットは自分でも驚くほど冷静な脳の支配下に置かれていた。むしろ、右手を失い理性を取り戻したほうが正しいのかもしれないが。
一瞬の隠れ蓑として、右手が爆発したと同時に起きた噴煙に重なるように機体を隠す。
今、この瞬間だけは右腕を失ったリーフェットと相手の優位性はゼロに戻っている。この好機を逃すまいと、リーフェットは思考を巡らせサザーランドを前へと加速させた。右腕と胸部の間にあるスラッシュハーケンを、煙の先へと射出させる。発射音と共に機体とを繋ぐワイヤーを伸ばしながら真っ直ぐに飛んで行く。
ガキンと横に弾かれた感触、突き刺さるではなく弾かれたと確信したリーフェットは相手の位置を予測。ランドスピナーを使い前進させながら、機体の姿勢をさげる。片膝をつくような低姿勢で滑走するサザーランドのやや上方を、煙の向こうから飛び出してきた銃弾が掠め舞う。
「今度こそぉ!」
叫びと共に煙の向こうに飛び出したリーフェットが見たのは、銃口をやや上向きに構えている相手のサザーランド。すぐ様左胸部のスラッシュハーケンの角度を調整し、アサルトライフルを持つ相手のサザーランドの右腕目掛けて射出させる。相手のサザーランドが照準を調整する刹那の時間、先に射出されたハーケンがアサルトライフルを弾き飛ばした。
完全に無防備になったサザーランドを沈める事は容易く、左手のスタントンファで二度三度と叩きこみ最後は胸部を一突きにされ完全に機能を停止した。
PR