ミレイ達が到着した時には、ナリタ山の一部が崩れ去っており麓の町が土砂に飲み込まれていた。自然の力か人為的な力かわからないが、町の建物は埋もれすでに町とは呼べない程にひどい状態である。この土砂では足が土に呑まれてしまうため、ランドスピナーでの移動が困難なため土砂がない場所まで迂回する事にした。
「それじゃー気を付けてねぇ♪」
ラクシャータに送り出されたミレイとナナリーは、トレーラーから勢い良く飛び出しナリタ山への進行を開始した。土砂を迂回しながらブリタニア軍のいる場所へ昇れる斜面を探していると、二台のトレーラーがタイヤを空ぶかしさせて斜面に突っ込んでいるのがモニターに映し出される。
「ミレイさんあれは?」
ナナリーも同じトレーラーを確認していたのか、ミレイに声をかけた。
「さあ?なんだろう……ん?」
レーダーがピピっという音と共に、周辺にいる熱源反応を映し出す。敵機を示す赤いマークが合計で十一個表示されており、そのうち五機と六機に分かれて敵対しているのかマーク同士が接触と離脱を繰り返していた。五機の息のあった動きから繰り出されるコンビネーション攻撃で、相手の方が数では上回っているはずなのだがすっかり翻弄されている。これにはミレイも感心するしかなかった。同様にナナリーも「すごい」と感心の声を漏らす。
「ま、この五機がブリタニア軍じゃないなら加勢しちゃおう♪」
そう言ったミレイは、この場所は土砂の被害範囲外というのを確認しランドスピナーをフルスロットルさせた。急激に加速を開始するミレイの黒百合を追いかけるように、ナナリーもフルスロットルさせる。土砂がない為颯爽と斜面を駆け上っていく二機は、モニターに目標を捕捉し行動を開始した。
戦闘をしているのは、サイタマゲットーで対峙したブリタニア軍のグロースターが一機とグロースターとは色違いで外周ブレードが無い大型ランスを持ったサザーランドが五機。それに対しているのが、ブリタニア軍の旧型KMFグラスゴーと形が似ているKMFが五機。昆虫のような顔に頭部から触覚のようなアンテナが2本伸びている。四機は茶緑色を基調とし頭部、手首、肩、ランドスピナー部分が黒っぽい茶色をしており、一機だけが白っぽい茶緑色を基調とし恐らく指揮官機と思わせる色をしていた。
「あれは……サイタマゲットーの」
ミレイとナナリーの乗るKMFと一度対峙した事のある人物、この作戦の指揮を取っているコーネリア・リ・ブリタニアの騎士であるギルフォードは、新たに現れた敵機に舌打ちをする。ただでさえこの五機に手こずっている上での敵の増援は、この状況をさらに悪化させる要因になるからだ。
「くっ……藤堂を相手にしながらあのKMFも相手にせねばならぬとは…」
ギルフォードが漏らした藤堂という人物は、日本とブリタニアの戦争でKMFの無い日本軍が唯一ブリタニア軍に勝利した戦いを指揮した男。その勝利は厳島の奇跡と呼ばれ、ブリタニア軍にもその名を響かせた元日本軍中佐。それが藤堂《とうどう》 |鏡志朗《きょうしろう》である。
その藤堂と共にいる四機に乗るのは、旧日本軍時代からの藤堂の部下で深い信頼で結ばれている四聖剣の四人。左右非対称の長さの髪に丸眼鏡をかけ、右目に傷跡がある青年の朝比奈《あさひな》 省吾《しょうご》。この五人の中で一番年上で白髪、眉間の上にコブがある仙波《せんば》 崚河《りょうが》。逆立てた青髪の青年卜部《うらべ》 巧雪《こうせつ》。唯一の紅一点で男勝りな女性の千葉 |凪沙《なぎさ》の四人である。
ギルフォードの乗るグロースターと対峙している藤堂と、四聖剣の四人もミレイとナナリーの方へ警戒をむけた。グロースターの持つランスの外周ブレードと藤堂の乗るKMFの持つ廻天刃刀がぶつかり、火花を散らしている。アサルトライフルを装備しているミレイ機は、銃口をサザーランドへ向けるとトリガーを引いた。発射された弾がサザーランドを直撃し、四肢を貫かれ行動不能にさせれたパイロットはレバーを引き、コックピットブロックを射出させる。その行動を見た藤堂達は、今はミレイ達が敵では無いと察したのか再び意識をブリタニア軍へと向けた。
「ミレイさん援護を」
「りょーかい♪」
ランスと刀の鍔迫り合いを互いに弾いて互いのKMFの距離を置いた隙に、ナナリーはKMFの両方の手に逆手で持った廻天刃短刀を構え、ギルフォードの乗るグロースターへ飛び掛る。休まる事無いギルフォードであったが、ランスの刃でそれを弾くと標的をナナリーに定めランスの構えを取った。コックピット内では藤堂達の動きも確認し警戒を怠らない。
「もーらい♪」
コックピット内で明るく声を漏らしたミレイは、四聖剣の動きに合わせて相手のサザーランドをアサルトライフルで攻撃する。すぐさま回避行動を取ったサザーランドであったが、四聖剣の動きにまで警戒できていないのか彼らの乗るKMFの廻天刃刀で胴と足を寸断された。
「ラクシャータさん、この機体の事知ってる?」
ミレイは、無線でトレーラー内にいるラクシャータに呼びかける。モニターに表示された画像データも合わせて転送していた。
「ああ、これはキョウトのおじいちゃん達がグラスゴーをコピーして作った無頼《ぶらい》ってやつだけど」
ラクシャータは転送された画像データを食い入るように見つめる。
「たぶんカスタム機じゃなぁい?あたしは関わってないけど」
「無頼のカスタム機…ね」
「たぶんおじいちゃん達がつけるとしたら、無頼改って感じかな」
「わかったわ。ありがとう」
そう言って通信をきったミレイは、藤堂機に近づき無線に介入する。
「こちらは反ブリタニア活動をしている者です。ここは我々にお任せ頂けますか?」
外部に自身の正体がばれない様、常に変声させた声を発信させる仕組みになっており話し方さえ気を付ければまず性別はばれない。
「む。君たちは」
「我々の事を知るより、優先すべき事があると思いますが」
藤堂の言葉を遮ったミレイの言葉に、藤堂は少し考えた後四聖剣に指示を下した。
「ここ君たちにまかせた……、生きて会う事があれば礼を言わせてもらう」
そう告げた藤堂は、四聖剣を連れて斜面を駆け上がって行った。追撃を仕様としたサザーランドは背後からミレイ機に撃ちぬかれ、戦闘不能にさせられる。
残りのサザーランドは追撃を断念し、ミレイ機に意識を向けるもすでに遅く、右手に持ったアサルトライフルと左手に持った廻天刃短刀により呆気なく行動不能になった。
「ったく、この間のグロースターの人みたいに張り合いがないわねぇ」
ギルフォード以外のKMFを沈めたミレイは、レーダーに新たに映し出された熱源を確認する。三機ほどがミレイ達の方へ向かって割りと速い速度で移動している。
「ナナリー、斜面を下ってやって来てる増援部隊を潰してくるわねん♪」
「あ、はい。こちらが終わりましたら向かいますので」
勝気なナナリーの言葉を聞き、ミレイは増援部隊の方へKMFを移動を開始させた。
「くっ……コーネリア殿下ぁ」
ギルフォードの悲痛の叫びは、コックピット内に響き渡る。ランスを構えたギルフォードのグロースタート違い、両手を下に降ろした自然体で構えるナナリーの乗る白百合。コーネリアの状況を気にしつつも、気を抜けない相手にギルフォードの焦りは募る。
藤堂達の所属の反ブリタニア勢力日本解放戦線。その本拠地を叩き落とすために攻め込んできたブリタニア軍は、予期せぬ者の来襲に戦況を狂わされていた。その来襲者こそゼロの率いる黒の騎士団であり、土砂も彼らの仕業である。
ギルフォードが焦っているのは、増援部隊から藤堂達を誘いこみ挟撃を予定していた場所に、黒の騎士団が向かっていると言う連絡を受けたからだ。だが、焦りは動きに隙を生む。ギルフォードの技量でなんとか致命的なダメージを回避しているが、ナナリーの短刀により機体の傷が増していく。
「これならまだ、サイタマの時の方がワクワクしましたのに」
両方の短刀でランスとやり合う。
「いい加減邪魔ですから外周ブレードを断たせて頂きます」
何度か刃を交えた際に、外周ブレードの表面を確認していたナナリーは傷が深いブレードに目標を定めた。
「これで!!」
強化した加速力を駆使し、接近戦で緩急をつけて相手の反応を翻弄する。機体の軽さや柔軟さをも利用し、ギルフォードの薙ぎられたランスを飛び越え自身の機体に触れさせもしない。目標のブレードとギルフォードのグロースターが直線上に重なるようにタイミングを計る。
「そこ!!」
一旦間合いを空けたナナリーは、目標のブレードがグロースターに重なるのを確認し前方向へKMFを加速させた。ギルフォードはその動きに合わせランスを構え攻撃のタイミングを図る。フェイントも無くただ真っ直ぐにやってくるナナリーのKMFに合わせランスを引く。
「調整の結果をお見せしましょう」
気持ちを高揚させたナナリーは、一瞬口の端をあげるとランスを引き目標を定めたギルフォードから見て左へずれる様に、ランドスピナーを蹴りだしフェイントをかけた。
「甘い」
瞬時に照準を左にずらしたギルフォードは、ナナリー機目掛けてランスを一気に突き出す。そのタイミングを狙っていたナナリーは、ランスが突き出される動きを開始したのと同時に右足を蹴りギルフォードから見て右へ機体の位置を移動させた。
「なに!?」
すぐ様ランスの横を疾走して向かってくるナナリー機に対応しようにも、ランスの大きさが仇となり切り返す事もなぎ払う事も分が悪い。なんとか攻撃を防ぐように外周ブレードを自身の正面になる様に構える。まさにそれを狙っていたナナリーは、右手逆手に持ていた短刀を順手に持ち変え上に振り上げる。左手は短刀を逆手に持ったまま下に下げる。
「断ちます!!」
右手を振り下ろし左手を振り上げた。ブレードをとランスを繋ぐ部分にある傷跡に目標を定め、両手に持つ短刀を交叉させる様に斬撃を放つ。キュィィンという廻天刃の音を響かせ、ブレードがランスから弾け飛ばされた。
「しまった!!」
ブレード部分が無くなりグロースターの期待がむき出しになる。すかさず短刀の間合いに詰めたナナリーは、右足のランドスピナーを逆回転させKMFをその場で超信地旋回し、機体を水平方向に一回転させた。短刀を順手に持った右手でグロースターの右腕を切断する。短刀を逆手に持った左手は向きを下方向に下げ、右足を斜めに切断した。
「まだまだ」
「ぐっ……これでは」
まだまだ回転を止めないナナリーは、体勢を崩し傾いたグロースターのコックピット前部に位置する胸部に、切り傷をつけ左手で胴体を頭部を切り離す。胸部を切られた衝撃で、コックピットブロック緊急射出プログラムが作動したため、ギルフォードの意思に反してグロースターからコックピットが射出された。
寸断されたケーブルからバチバチと火花が散り、グロースターの機体から黒い煙を吐き出し爆発音を奏でた。
「ふぅ」
ナナリーは極限まで高まっていた集中を緩和させるように、一息だけ肺から息を吐き出すとレーダー上で近づいてくるミレイ機の信号を確認する。
「お疲れ様♪」
ミレイの声が聞こえると同時に、木々の間からミレイの乗る機体が姿を現した。真っ先に狙ってくれと言わんばかりのピンクカラーの機体は、一つも傷を負った様子も無くトレーラーから発信した時の姿でナナリーの前で停止した。
「今回は勝てたのね」
「う~んどうでしょう。今回は相手の方の集中力が散漫でしたので」
「まぁ勝ちは勝ちって事で、ここは喜んじゃおう♪」
「はい、そうですね♪」
ミレイの言葉でナナリーもようやく嬉しそうな声色を漏らす。
「そう言えば、上の方まで登ってみたけどシンジュクで見た白いKMFが、ものすごいスピードで移動しているのを見たわ」
「ぜひ手合わせしてみたいですけど、先ほどの戦いで機体を少し無理させちゃったみたいで」
エナジーフィラーはまだ余裕があるが、コックピット内にあるモニターの一つに機体の状態を表示するものがあり、脚の部分がオレンジ色で表示されランドスピナー部分と脚の関節部分が異常を示していた。
「なら、ナナリーは先に戻っていて。私はちょっと様子を見てくるから」
「わかりました。気を付けてくださいね」
モニター隅に映るナナリーに笑顔を向けると、ブリタニア軍の白いKMFが向かった方向へミレイはKMFを発進させた。斜面を駆け上がるミレイ機の背中を眺めていたナナリーだったが、姿を見えなくなるのを確認し一人トレーラーの方に進路を向けた。
斜面を登り白いKMFが向かった方向へ進行しているミレイは、遠方から急激に接近する緑色の光球体をモニタに捉えた。
「ええ!?」
危険を察知したミレイは、すぐ様射線上から避けそれを回避する。モニタで瞬間的に捉えた画像を確認すると、光球体の正体は緑色に発光した銃弾であった。
「当たったらまずいわねぇ…ん?」
銃弾が飛んできた方向を確認すると、白いKMFが激しく四方八方へ銃弾を発砲している。ミレイの方向へ飛んできたのはたまたまで、確実に狙われたものではないと察したミレイは白いKMFの足元にある人型の熱源をモニタで捉えた。その部分を一部拡大させると、ミレイの見知った人物がその場に立っている。
――シーツーとルル…ああ、この場合はゼロかな
銃撃の爆風に巻き込まれているのを確認すると、KMFの上体を低くし銃弾に当たらないように白いKMFの間合いを詰めた。
「シンジュクでの借りを返すわ」
激しく動き回る白いKMFへ肩から体当たりしたミレイは、すかさず左手の短刀を腰のショルダーに収めシーツーとゼロを手中に入れる。さらにVASRAGのコードを解除し右手に持っていたアサルトライフルを捨てて、VASRAGを右手に持つ。
「さぁて」
背後に気を配りながらランドスピナーを加速させ、その場を後にするミレイ。体当たりをされた白いKMFだったが、ボディバランスがいいため少しだけ体勢を崩しただけであるため、すぐに立ち上がった。相変わらず意味不明に動き回っているが、銃弾を起こしたのか飛んではこない。
「ったく、おどかせないでよっね!!」
VASRAGの照準を白いKMFに合わせ撃ち込む。激しく動いているため、なかなか狙いを定める事は困難であったが、放った内の一発が銃を持つ右手に直撃した為白いKMFは銃を地面に落とす。それを確認したミレイはそのまま斜面を駆け下った。
「お前は何者だ。どこの所属だ」
仮面の人物ゼロとシーツーをようやく見つけた洞穴の前に降ろすと、ゼロは礼ではなく警戒をミレイに対して向けた。
――ふふ、いつか…話すときが来るかしら
モニターに映し出されるゼロの姿に笑みを浮かべたミレイは、そのまま何も言わずに二人に対して背を向けKMFを発進させる。
「おい、待て」
背後から聞こえるその声に応える事無く、ミレイはナリタ山中へと消えて行った。
PR