静寂に包みこまれた夜クラブハウス。そこには普段いないはずの人物がとある部屋のドアの前で佇んでいた。ドアをノックしようとする手を何度も出しては引っ込める、という事を繰り返していた。
「こんな時間に…なにか用ですか?会長」
驚きと共に声のした方向へミレイは顔を向ける。部屋の中にいると思われていた人物がそこに立っていた為、ミレイは目を大きく開き体を硬直させた。固くなった体に震える唇、そのせいで出そうと思っていた言葉が思うように喉から出ない。
「あまり規則が厳しく無いとは言え、こんな時間にやってくるなんて。さすがに日付が変わっていたら、規則違反になるんじゃないですか」
少しだけ呆れ顔を浮かべたルルーシュは、ゆっくりとミレイの方へ歩みを進めた。固まるミレイにそれ以上言葉を紡がないルルーシュは、ミレイの横を通り過ぎドアの前で立ち止まるとセンサーが反応しドアがスライドする。やっとの思いで体を動かしたミレイは、ルルーシュの方へ振り向き、ルルーシュの来ている学生服の裾を握った。
「あ、あのね…えっとぉ、今日ルルーシュと一緒にいた人ってさ……、その~ルルーシュの何なの…かなって気になっちゃってさ。高等部では見た事ない子だったから…」
不安げな表情を浮かべ震える体を必死に押さえ込むミレイの言葉を聞き、ルルーシュはゆっくりとミレイの方へと振り返る。そこにあったのは、ミレイの言葉に対してなんの感情も見せず答える気の無い冷たい目。その目に見られたミレイは、思わず体をビクっと震わせる。いつもの呆れも優しさもない、興味の無いつまらなそうな顔。初めて出会ったときの冷たく閉ざした……。
「ミレイ……お前には、関係ない…だろう」
会長と副会長と言う仮面をはずし、本来の名前で呼ぶルルーシュに放たれたその言葉は、救いを少しでも求めたミレイの心を貫き闇へと誘う。無意識の内に目から溢れだすその雫はミレイの頬を濡らし、やがて床に小さな水跡を残す。
「あ、ご…ごめんな―」
最後まで言葉を言い切ることができないミレイは、たまらずルルーシュに背を向けて逃げ出した。溢れる涙を拭う事無く、ただこの場所から一時でも早く離れる事だけを考えて。
「やはりバカだな…お前って男は。いつもつまらん所でプライドにこだわる」
自分の部屋の窓から、寮へと走って行くミレイの後姿を見ていたルルーシュに対して、入り口の壁に寄りかかりながらシーツーは言葉を掛けた。突然のその声に、嫌悪の感情を表情に出しルルーシュはシーツーの方へ体を向けた。
「いつのまに!?」
「最初からだ。あれじゃ金髪女が可愛そうだ。隠さずに言えばいいだろう?金髪女の事が好きだと―」
「黙れ魔女め。事はそう単純じゃない!!」
声を荒げるルルーシュに、シーツーは呆れたさめた声で返答する。
「ふん、単純だよ。お前はあいつが好きで、あいつもお前が好きなんだ」
「黙れ!!」
「これだから童貞は手に負えん。私はもう寝る、お前は床で寝ろ」
そう言ってシーツーは、ルルーシュの反論に耳を傾けずそのまま拘束服を脱ぎ捨てて布団へともぐった。
「さぁ~諸君、今日も張り切って書類整理と行こう」
翌日、生徒会ルームに集まったスザクを除いたいつものメンバーは、元気な声と裏腹に目を真っ赤にさせ少し浮腫みの在る会長の様子に心配の声を上げた。それでもミレイはただの寝不足と一言で片付け、自ら書類を受け取り書類を纏めていく。
「ちょっ、会長」
普段なら他人に任せ自分はあくまでもやらないか、ギリギリになってやり始めるはずのミレイが、今日ばかりは率先して行動しているミレイにみんな不安がる。さすがにそんなミレイの様子にバツが悪くなったのか、ルルーシュは立ち上がりミレイの元へと歩み寄った。
「か、会長」
「ん?なぁにルルーシュ」
ルルーシュの方へ決して向かないミレイは、声だけで反応する。
「昨日は言いすぎました。実は―」
「すいません遅くなりました」
ミレイに対して言葉を並べていたルルーシュの声を遮ったのは、軍務を終えてせめて放課後だけでもという上司の言葉を受け急いでやってきたスザクの声だった。
「あ、ルルーシュ、今日は来てたんだ。昨日いれば一緒にゲームできたのに」
その話題はまずいと冷や汗をかくミレイは、こっそり顔をあげルルーシュの顔を覗きこむと案の定怒っているときの冷たい表情になっているのを確認する。
――スザク君…ほんと、たまには空気読んで
小さく聞こえないようにため息を吐いたミレイだったが、不幸はこのままでは終わらなかった。
「あれ?」
一瞬見えたミレイの目が赤い事に気づいたスザクは、素早くミレイの所へ移動しその頬を両手でそっと触れ、顔を上向きにさせる。
「会長、目が真っ赤ですよ。何かあったんですか?」
その行為にいち早く反応したのはミレイではなく、隣に立っていたルルーシュだった。
「スザァク!!」
ミレイに触れているスザクの両手を、素早く弾くとミレイを抱きかかえるように強引に自分の胸元へ引き寄せた。何がなんだかわからない生徒会メンバーだが、一番状況がわかっていないのは胸元に引き寄せられたミレイであった。
――え?え?なに?
「スザク、どういうつもりだ!俺のモノに勝手に触れるな」
いつもの穏やかな表情と違い、憎悪を浮かべたその表情にスザク意外のメンバーは唖然とする。いつもは笑顔を浮かべているか、難しい顔をしているルルーシュであったがこんな怒りに狂う顔を見た事がなかった。
「どうしたのさルルーシュ。なんでスイッチ入っちゃてるの?」
「黙れ!!」
スザクがいつも通りマイペースな分、余計にルルーシュの変化が際立つ。ミレイの腰元を左腕で包み、右手はミレイの顎を下から掴む。右手の親指の腹で唇をゆっくりなぞるりながら、ルルーシュはゆっくりとした口調でミレイに問いかけた。
「ミレイ、お前は誰のものだ」
表情は普通に戻っていはいたが、声は若干ドスが効いている低い声。それに囁かれてミレイは不思議と体に火照りを感じていた。なぞられる唇に意識が集中し体が身震いを始める。
「んん!?」
答えを言わないミレイに業を煮やしたルルーシュは、強引にミレイの唇を自分の唇で塞いだ。いきなりの事に驚き、身じろいだミレイを押さえつけるように自信の舌をミレイの口内へと押し込む。体を硬直させたミレイは目を瞑りそのルルーシュの感触を味わわされたが、なんとか顔を横にそらし荒く息を吐いた。
「はぁ…ルルーシュやめて!!」
「黙れ!」
ルルーシュの間近で聞く怒声に驚いたミレイは、ルルーシュの方へ視線を向けたまま体が固まる。
「ミレイ…もう一度聞く。お前は誰のものだ」
ふいにいつもの優しい声、それをたまらなく愛しいと感じたミレイは素直に口を開く。
「ルルーシュの…です」
頬を上気させ瞳を潤ませたミレイは、何の疑問も抱かず素直に言葉を口にする。
「お、おいおい。何やってんだよルルーシュ。悪ふざけが過ぎるぞ」
慌ててルルーシュに歩み寄ったリヴァルがルルーシュの肩に手を触れる。
「離せ!!」
今まで見た事無いルルーシュの表情に、間近で聞く怒声に驚いたリヴァルは反射的にルルーシュから飛びのいた。
「俺のモノに何をしようと俺の勝手だ。お前たちにとやかく言われる――」
――俺は、な…何をやっているんだ。
衝動で我を忘れていたルルーシュが、ふとした瞬間に我に返り現状を確認する。特に変化が無いのは、本性を知っているスザクと腕の中に抱きとめているミレイの二人で、他全員がルルーシュに対し恐怖の念を抱いている事が表情からも見て取れた。
「あは、あははは。みんな今の事…昨日のゲームの事も忘れろ!!」
「すいません、会長。俺の部屋に書類忘れちゃって、一緒に取り行ってくれませんか?」
「え?ええ」
先ほどまでと脈絡の無い会話に、一瞬戸惑うミレイは回りのメンバーの様子を伺う。先ほどまでの怯えた様子は無く、みんな和気藹々しながら書類を片付けていく。
「ほんとにルルったら、おっちょこちょいなんだから」
「ほんっと授業中も寝てるし、ボケが来てんじゃないの?」
「それじゃあ会長、僕たちはこの書類をやってますから、ルルーシュの書類…お願いしますね」
――え?あれ?さっきまでのは一体…夢?
あまりにも普通な反応のメンバーに疑問を浮かべるも、強く握られたルルーシュに引っ張られ生徒会室を後にした。生徒会ルームからルルーシュの自室までは近く割りとすぐに到着したのだが、その間一切会話は無くミレイの問いかけにも反応はない。ルルーシュの部屋に着き引っ張られるまま入らされたミレイは、次の瞬間ベットの上に押し倒されていた。
「きゃ……ちょ、ちょっとルルーシュ!?」
ベットの上でルルーシュの下敷きにされているミレイは、じたばたと抵抗するも男の力に叶うはずも無く逆にベットに強く押し付けられてしまった。
「ん」
先ほど見たく強引に唇を重ねられるも、今度は自らも積極的にルルーシュの舌を追い求める。ガコンと何かが床に倒れた音を聞いた二人は、そちらの方へ視線を向けると割りと大きめなバックが床に倒れており、その中から飛び出た黒い仮面が目に入る。
「え?嘘…あれって」
それは世間を騒がしている人物、反ブリタニア勢力である黒の騎士団を率いる人物のつけている仮面と同じ物。それがこの部屋の床に転がっている。ミレイを押し倒す事に集中していたルルーシュは、片付けと中だったバックの事を失念していたのか自らの脚で蹴飛してしまい、その結果今のような状況となった。
「そうだ、俺が…ゼロだ」
仮面が転がってることに一瞬驚きの表情を浮かべたルルーシュだったが、すぐに冷静な表情を取り戻しミレイの上でニヤリと笑う。
「そう…、じゃあ私は殺されるのかしら?」
「そうだな…殺されない方法、ミレイならわかるだろ?」
悪どく追い詰める笑みを浮かべたルルーシュは、ミレイのその瞳を自身の紫電の瞳で見つめる。
「ふふ、私で慰めればいいのね。ルルーシュを…そしてゼロを」
ミレイは観念したように全身の力を抜き目を瞑る。再びルルーシュの唇がミレイに重なると、押し寄せる波に体を震わせながら、ルルーシュを受け入れ包む。
「もう…私はあなたの人形よ。だからいつでもあなたの好きにしていいわ」
その言葉に満足げな笑みを浮かべたルルーシュは、ミレイの来ている制服のボタンをゆっくりとはずしていく。それに抵抗する事無く、ミレイはただただ自身の纏う布地を薄くする。
「ふははははは。わかっているじゃないか、唯一殺されない方法を。ミレイ、俺のために全てを捧げる人形になればいいんだ。逆らうことは許されない」
この日から狂乱の宴が始まった。ミレイが望もうと望まないと、逆らうことは許されない。
もう彼の人形となった彼女には、拒否する権利などありはしないのだから……。
「あら?アーサー?」
クラブハウスの1Fのテラスで日向ぼっこをしていたナナリーは、自分の方に近づいてくる四本足の猫に向かって声を掛けた。呼ばれたのがわかったのか、少しだけ小走りになったその猫をナナリーの膝上に向かって飛び上がる。少しだけ驚いたななりーだったが、すぐまさアーサーを包みこみ、右手でその背中を優しく撫でた。
「どうしたのかにゃ~?…一緒に日向ぼっこしましょうね」
その言葉に一言アーサーは「にゃ~」と一鳴きすると、それに答えるようにナナリーも「にゃ~」と鳴き一人と一匹は気持ちよさそうに午後の日差しを全身に浴びた。
上階では、絡み合った男女が荒い息を上げ、ベットに深く沈みこんでいる事など知らずに……
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