「我々は、日本の独立解放の為に立ち上がった」
草壁をはじめとした軍人がすべて日本人の為、過去のトラウマの影響でニーナはガタガタを体を震え上がらせる。自然とニーナを抱きしめるミレイは、周囲の状況を確認するも人質が多い中で行動を起こすのは分が悪いと判断し、歯がゆい思いを感じながらただニーナを抱きしめた。
「君たちは軍属ではないがブリタニア人だ。我々を支配するものだ!!大人しくしているならば良し。さもなくば……」
その先の言葉を合えて発しなかった草壁は、そのままこの部屋から出て行った。人質達は周りに軍人が銃口を向けて牽制しているため、安易にざわつくことも出来ずただただこれからの事を考えて肩を落とすしかなかった。
ミレイ達三人が泊まる予定だったのは、河口湖コンベンションセンターホテルという場所で、河口湖の中心に建設されていた。夜景もさることながら、高層階にあるレストラン等からの眺めも良くブリタニア人の旅行客は多い。宿泊階数によって値段が分けられているため、彼女達のような学生でも泊まれる価格帯の部屋も用意されている。レストランもリーズナブルなバイキング形式の店から、高級な店まである程度価格帯は幅広い。
「会長、ほんとにこんな部屋に泊まっていいんですか?」
チェックインを済ませて案内された部屋は、三人が使うにしては広めの部屋であり窓から見える景色もかなり見晴らしがいい。室内に敷かれた絨毯の素材や設置されたテーブル等も、素人が見てもそれなりの品物と見て取れる。
「いいのよ。どうせお爺ちゃんが知り合いからもらった招待状だし♪」
ミレイは今は中身が無くなった封筒をひらひらとさせて笑う。
「さっきの人、ここの支配人だって…」
受付で封筒の中身である招待券を提示すると、すぐさま支配人を名乗る男がやってきて、三人をこの部屋まで案内し簡単な利用方法を説明してこの部屋を後にした。
「ああ、まだうちが落ちぶれちゃう前に、お爺ちゃんが本国で|世話《援助》をしていた事があったらしくてね。ま、おじいちゃん様様♪って事で今宵は楽しもうぞ」
にやりと笑みを浮かべたミレイは、部屋の端に荷物を置くとこのホテル中にあるレストランの冊子をテーブルに広げた。
「ねぇ、お昼はどこのお店にする?」
「ん~私はどこでも」
「ニーナは控えめねぇ…シャーリーはどれがいい?」
「ん~実際に雰囲気見てみたいです」
「よし、決まり♪レストランフロアへレッツゴー」
ミレイ達の泊まるここ、河口湖コンベンションセンターホテルはブリタニア人の観光客も多いホテルだが、実は世界にとっては重要な場所でもあった。KMF等にも欠かすことの出来ない高温超電導体の戦略物質で、このエリア11が世界最大の産出国になっている物質サクラダイト。世界への分配レートを決めるサクラダイト生産国会議を行うのが、ここ河口湖コンベンションセンターホテルなのである。
その会議が今日行われている事を知らなかったミレイ達は、それを狙って襲撃してきた日本解放戦線により高層階にあるミドルフロアの食糧貯蔵子へと連れてこられた。そこにはすでにつれてこられたブリタニア人が多数座らされており、突きつけられる銃口に押されながら指示された場所に腰を降ろした。
――5…6…7人か
ミレイは部屋に入ってきてから座らされるまでの間に、取り囲む軍人の数を視野に収めていた。大体の位置と人質を確認する。普通の観光客意外にも先ほど部屋に案内してきた支配人の男性、ホテルの制服を来た従業員…脳内でシミュレーションを行うも、これだけの人数を無傷で助けるには分が悪いと判断し奥歯を噛んだ。
――ニーナとシャーリーだけならなんとかなぁ……、やっぱりこういう時にナナリーのギアス便利なのに
ミレイの共犯者の少女がこの場にいないことを少しだけ恨んだ。
どれほどの時間が経ったのだろう、どのくらいの時間なのか、身の安全はいつまで保証されているのか、恐怖と不安で人質の心はすでに憔悴しきっていた…ミレイを除いて。ミレイ達が来た時には青空が広がる昼間だったが、今はオレンジ色が空を染めていた。
――みんなそろそろ限界…かな
ニーナはトラウマからイレヴンに囲まれているだけでも体を震わせている。そんなニーナを宥めながらミレイは現状を打破するため作戦を練る。だがどうしても解決できない問題が出てきてしまう。それは救出すべき人数に対し、武器を持つ敵が多い事。また、不用意にギアスを使うことも好ましくないため、それを差し引くと分が悪い。
――万事休す…て感じねぇ♪
こんな状況でも楽しんでしまうのは、狂者だからなのか心がおかしいからなのか…。最悪ニーナとシャーリーだけは助けると誓いながらも、この苦しい状況に口の端を上げそうになる顔の筋肉を必死でミレイは抑えた。
「うっ…ひっく…ひっ」
人質の周りに立つ軍人の足音一つに体を震わせ、嗚咽を漏らす。ミレイの手を握り締めるニーナの両手は、気持ちを表すようにガクガクと震え続けて強張っている。ちょうど軍人がミレイ達の前で立ち止まったところで、過敏に反応してしまったニーナは口から禁忌の言葉を漏らしてしまう。
「ひっ!!イ…イレん――」
それに気づいたミレイはニーナが言い終わる前に口を手で塞いだ。ミレイは、鋭い目つきで目線だけを軍人の方へ向ける。やはり言いかけた言葉が聞こえたのか、怒りの剣幕を露わにした表情で手に持つ銃の口をニーナへ向ける。
「今なんと言った!?」
「ひっ」
食糧貯蔵庫内に軍人の怒声が響き、ニーナがそれに悲鳴を上げる。
「イレヴンだと!?我々は日本人だ」
「誰がイレヴンていいました?」
「こいつが今言ったであろう!!」
「さあ?隣にいたあたしには聞こえなかったけど」
軍人の表情と怒声で怯える少女の横で、予想だにしないミレイの態度に軍人の怒りのボルテージが上がっていく。この状況下でも他の人質と違い、まったく怯える様子も自分が殺される立場という事を感じていないかのような表情に言葉。
「なんだその態度は!!」
「………」
「お前は隣間で来い。じっくりその体に教え込んでやる」
軍人はミレイの手を握り強引に引っ張り上げる。
「ミレイちゃん!!」
「会長!!」
心配そうな二人を片手で制止し、安心させるようにいつもの笑みを浮かべる。
「こっちにこい!!」
ミレイを引っ張り隣の部屋のドアへ向かう。その後を3人ほどが後に続く。体に教え込む…それは軍人にも人質にもどんな事かは容易に想像がつく。
――うふふ♪あたしに触れていいのはルルーシュだけよ……、あなたから殺してあ・げ・る♪
手を引っ張る軍人の後ろに付いて行くミレイは、誰にも見えないように口の端を上げ自分が狩る立場と思っている獲物に、静かにゆっくりと牙を向けた。
部屋に入ると、後ろからも数人の足音が入ってきた事を聞き、最後に部屋の鍵がロックされる音を耳にした。
「今からお前に、たっぷりと教え込んでやる。我々が日本人だという事を」
その言葉に背後の軍人達も笑みを浮かべてニヤニヤしているのだと、ミレイは容易に想像できた。ミレイは周囲を一瞥すると軽くため息を漏らし、スカートの中に手を入れてもそもそと動かす。何をしているのか軍人達は察したため、より一層下卑た笑みに変わった。
「よいっしょっと」
履いていた下着から片足を抜き取り、もう片方の足を抜き取る。それを見え易いように少し高めに持ち上げると、上に放り投げる。
「へっへっへ」
視線がそこに集中しているのを確認したミレイは、にやりと口の端を上げると、太ももにつけている皮製のベルトに刺さっているナイフを2本取り出し、正面の男の眉間へと投げ込む。悲鳴も何も上げる間も無くナイフを差し込まれ、そのまま膝から床に崩れ落ちた。その間にすでにもう一本ナイフを取り出したミレイは、無駄の無い動きで振り返る。
それと同時に唖然として隙だらけなミレイから見て左の軍人に、右手に持ったナイフは投げつける。そのまま生死を確認せず、正面に立つ軍人の喉元へ向けて、左手に逆手で持ったナイフで首元を一気に気切り裂く。そのナイフを右手に持ち変えて、ミレイの右側にいる軍人の喉へナイフを突き刺す。その速さと力で壁に押し付けられた軍人は、自分の体を支える事は叶わずそのまま壁に背中を付けたまま床へ崩れ落ちた。
「んふふ♪」
軍人からあふれ出る紅い飛沫にで服を汚さないよう、スカートの裾を掴み紅い水溜りをよける。その姿はまるでパーティーで踊っているかのような、華麗さと優雅さを備えていた。
誰にも見られる事の無いその舞を踊る少女は、氷のような微笑を浮かべていた。
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