音も無く赤い粒子と共に姿を現したのは、水色のワンピースのドレスに胸元をリボンのように縛り、胸を強調する白いジャケットを着たミレイであった。ミレイが姿を現した場所は、自身がホテル内で最も正確にイメージできる場所…自分達の宿泊する部屋。
「跳躍成功♪」
誰に言うわけでも無いが、ビシっと決めポーズを決めたミレイは、すっかり暗くなった外の状況を部屋の窓から確認した。ホテルにかかっている湖畔からの道路は三本でており、中央のと左右に伸びる端が交通路である。ホテルに左右から伸びる端は、橋脚部分で橋が片開きする可動橋になっており、現在は上げられている為中央の橋の部分が唯一湖畔とを繋いでいた。
――あれは~……
中央の橋の先の湖畔はライトアップされており、遠目から見てもブリタニア軍というのが見てわかった。
――え?
不意に視界を遮ったそれに驚くも、すぐ様なんなのか理解した。
――あの影の形は人間…!!
不謹慎ながらその人影が男性のものに見えたミレイは、自分の連れであるニーナとシャーリーではない事に少しだけ安堵した。しかしこのままでは、いつ彼女たちが標的にあうかわからぬため状況は悪い。急ごうにもエレベータでは危険すぎるため、階段で上に向かう事にしたミレイは部屋を飛び出した。
――さて…と
非常階段までやってきたミレイは、階段を昇らずにその双眸で上を見上げる。正確に階段の上の階を確認しイメージを行う。
ミレイのギアスは空間移動――ルルーシュの傍にいつでも駆けつけたいという想いが、願いが具現化した能力。実際に存在している場所に移動する能力で、移動先の場所を正確にイメージする事で離れた場所へ一瞬で移動することができるが、移動距離と人数、質量によって術者であるミレイにかかる負荷が増減する。
階段は同じ構造が上へ下へと作られているため、イメージがしやすく紅い粒子だけを仄かに残し十数階を一瞬で移動した。先ほどまでミレイも人質しておいたミドルフロアへ入るため、ドアノブに手を掛ける。ゆっくりと開きその隙間から通路の様子を伺う。今の視界には日本解放戦線の軍人の姿は見えないため、勢いよくドアをあけ通路へと飛び込む。体を回転させながらもすぐ様前方位を確認すると、日本解放戦線の制服ではないがマシンガンを手にした黒ずくめの人影が視界に入った。
相手もいきなり飛び出してきた金髪の女に驚いているのか、一瞬動きが固まっていたのを見逃さないミレイは、すでに左手に忍ばせていたナイフを逆手に持ち、一気に足で床を蹴りナイフと突き出す。相手もすぐ様銃口を金髪の方へ向けて構える。
「……あれ?カ…レン?」
至近距離に接近してみて、その人影が女性で髪が紅い事に気が付いた。いつだったかシンジュクゲットーで助けた紅い髪の少女と同じ髪型で、今日は目元を隠すバイザーをしている。
「ミレイ…会長?」
「なんだ~カレンか、あーびっくりした」
カレンだと先ほどの言葉で確信したミレイは、手にしたナイフをどこへとしまい学校と同じような微笑を浮かべた。
「ミレイ会長こそどうしてここに?シャーリー達と一緒に捕まってたんじゃぁ…」
「まぁ、いろいろあってねぇ~」
はぁ、とため息を漏らしミレイは肩をがっくりと落とす。
「それで?カレンはここで何をしているの?」
「あ、えっと~その」
「別に今更なに言っても驚かないって~♪」
「今はゼロの作戦により、ホテル内に爆弾設置と人質救出を」
「ゼロが来てるのね♪ま、とりあえずあたしはシャーリーやニーナ達の所へ戻るわ」
「わかりました。私もそこへ行くので一緒に行きましょう」
食糧貯蔵庫に向けてミレイとカレンは走り出した。
「会長!?」
「ミレイちゃん!?」
食糧貯蔵庫の扉を開けると、シャーリーとニーナが驚きの声を上げる。別室へ案内されたミレイが、別の入り口から入ってきたのだから無理は無い。二人の所へミレイが近づくと、ニーナは必死にミレイにしがみ付いた。
「ごめんねミレイちゃん!!ごめん」
「あ~よしよし」
優しく一定のテンポでニーナの後頭部をミレイは撫でた。心配と安堵の表情がまざったシャーリーに、大丈夫という意味もこめてにっこりと笑顔を向ける。
「会長~、ほんと良かった。心配で心配で」
「ありがとうシャーリー♪」
ミレイは空いてる手でシャーリーの頭を抱き寄せると、シャーリーも少しだけ体を震わせていた。まだ少女で有りこういう世界に無縁だったから無理も無い。ニーナと同じようにシャーリーの頭も同じように撫でた。
「えー、みなさん」
日本解放戦線の軍人と違い、黒い制服に黒いキャップをかぶり、目元を隠すための黒のバイザーを付けている
者達の内、一人の男が声を上げる。
「今から避難誘導しますので、どうぞ慌てずについてきてください」
そういった本人が先導するために歩き出す。日本解放戦線以上に得体の知れない人物のいう事に不安を隠せない人質達だが、ミレイはその場から最初に動き出した。もちろんニーナとシャーリーの手を引きながら。
「ちょっ…会長?」
「大丈夫♪この人たちは助けてくれるって言ってるんだし、さっきのよりマシよ」
シャーリーとニーナの声をよそに、ミレイはぐいぐいと引っ張って先導する黒い服の男の後を着いて行く。それをみたほかの人質達も、半信半疑ながらもミレイ達の後へと続いた。
奥へと進むと男が大きなエレベータの前でボタンを押しながら待っていた。恐らく裏方用の運搬用エレベータなのだろう。黒い服を着た人物数名を残し、人質全員を乗せる程広いエレベータはボタン操作した団員により下降を始めた。
最終的にとまったときには、エレベータの回数を表示するパネルが地下表示の記号を付けていた。エレベータが開かれて団員に案内された先の行き止まりには、一つのドア設置されていた。地下のはずなのだが、黒服の男が扉を開けると湖畔の水面が目に入った。実際ホテルは湖畔水面より高くにあるため、そのホテルの位置からしたら、この湖畔の水面も地下にあたる。
すでに水面には数隻のゴムボートが浮かべられていた。そこへ案内されるままに一人ずつ乗っていく。すべて乗り終えた後、ホテルより少しずつ離れていく。しばらくすると激しい音と共に、ホテルが下へと水没を始めた。その状況を見た人質から様々な声があがった。そして突然の爆発。その爆発がホテルを瓦礫に変えていくも、ホテルの水没は止まる事は無い。その衝撃で粉塵が舞い上がり湖畔の水面は荒立った。
しばらくすると粉塵の中から人質の乗るゴムボートを先導するように、一隻のクルーザーが姿を現わした。船のデッキの上に付けられたスポットライトを3つ点灯させ、彼らは姿を露わにする。その中心に立つのは、枢木スザクがクロヴィス殺害容疑をかけられていた時に、初めて姿を現した仮面の人物ゼロ。
「人々よ…我らを恐れ、求めるがいい。我々は……黒の騎士団!!」
この日…世界にとって幸か不幸か、黒の騎士団が誕生した。
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