日本解放戦線が崩壊した港湾施設での戦闘から数日、いつもの様に穏やかな雰囲気に包まれているアッシュフォード学園ではあったが、あの戦闘の日を境に少しだけ状況が変わっていた。世界にとってはほんの些細なこと、しかし当人たちにとっては大きな喪失感が胸に大きな穴を開ける。
シャーリー・フェネットの行方が知れず実家にも帰っていない彼女を捜索するも、完全に足取りは掴めずにいた。それでもいつものように明るく振舞おうとするミレイではあったが、生徒会メンバーの表情は重くやがてミレイすらもその雰囲気に飲み込まれ表情を次第に暗めてしまう。
「そうですか。やはりまだなにも」
電話の向こうの女性は今にも泣き出しそうな声色で、ミレイの言葉に対しお礼の言葉を述べた。シャーリーが居なくなってからというもの、ミレイは何か情報が無いか毎日シャーリーの母親へ連絡をしている。アッシュフォードの力を使い、シャーリーの行方を捜して居る為その報告も兼ねていた。夫を亡くしさらに娘までと憔悴しきっていた母親の力に、そしてなんて言おうと生徒会のメンバーとして好意をもっている友達の一人ということもある。
なにより修羅の道を進むと決めたルルーシュが、表面上は気丈に振舞っているのが目に見えてわかっているからであった。
「いえ、こちらも何も情報を掴めず申し訳ありません。はい……いえ、それではまた」
理事長室の机の上にある電話機に受話器を置き、一つため息をついた。
「すまんな」
ミレイに背を向けて窓の外を眺めて座っている祖父――ルーベンは、謝罪の言葉をミレイに送った。それが何を意味しているのかわかっているミレイは少しだけ笑みを浮かべて、椅子の背もたれでこちらの様子は見えないはずである祖父に対してゆっくりと首を振った。
「んーん、無理を言ってお願いしたのはあたし。お祖父ちゃんは気にしないで……ね」
祖父の背中へと言葉を投げ、ミレイは理事長室の重厚な木製の入り口へと歩みを進めた。歩く彼女には笑みは無く、あの日彼女の背中を追いかけなかったことを悔やむ。ため息と同時にドアを開けたミレイは、日が差し込む明るい通路に少し目を細めながら窓の外を眺めた。
青空を泳ぐ白い雲、遠目には政庁の姿と太陽光パネルの輝きがミレイの目に映しこむ。答えの出ない自問を繰り返しながら、ゆっくりと次の授業の為に教室へと向かった。時々すれ違う生徒の笑顔、友人と気兼ねなく他愛の無い話で笑い一日を過ごすのをうらやましく思いながら、学園一の人気を誇るミレイは偽りの笑顔を浮かべ声をかけてくる生徒達に向けて、その表情を振りまく。
――シャーリー、一体どこに……
祖父であるルーベンや黒の騎士団の情報網を使い、今現在もシャーリーの行方を追っているが未だになんの足取りも掴めていない。時間はただ無常に過ぎ、喪失感を抱えていても尚ルルーシュは歩みを進める事を止めない。この数日の間にも、自分のあずかり知らぬ所でギアスを扱う存在――ギアスユーザーと対峙したと言う事をナナリーとC.C.から聞いていた。名前は忘れてしまったが、恐らく中華系の名前だった気がする。すでに二人によってこの世にはいないその存在について、今更自分が何をしようと意味がない事はミレイは理解していた。だからこそ、これからのルルーシュの為にという思いで今動いている。
ルルーシュは恋人である。その事は揺るぎないはずであるが、ルルーシュの中でシャーリーと言う少女の存在はそれなりに大きい事はなんとなく感じていた。それは不意に見せるルルーシュの表情が、別の人物を思い描いているのだと心で感じていた。
ミレイに宿る焦りを嘲笑うかのように、運命はたった一人の少女をミレイに差し出さないまま……季節はすでに秋も半ばを過ぎようとしていた。
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