「はぁ~い。おまたせぇ」
褐色の肌、額には国の女性の特徴でもある雫の模様、クリーム色の長い髪を揺らしキセルを吹かしながら二人に手をひらひらと振っていた。ミレイとナナリーは初めて会ったときは、お国柄女性は肌の露出をあまりしないと聞いていたのだが、このラクシャータは例外なのか初めて会ったときから、白衣に胸元辺りのボタンだけ止めた色付きのブラウスに、ローライズパンツといったかなり露出度の高い服装だった。もちろん胸元辺りでしか止めてないブラウスのボタンの辺りからは、ブラジャーが完全に顔を覗かせていた。ミレイとナナリーは最初こそ女性であっても戸惑ったが、今ではすっかり慣れたものだった。
「ラクシャータさん、お久しぶりです」
「ナナリーもあんたもさぁ、元気そうでよかったよ」
「うふふ、ラクシャータさんは相変わらずね」
そんな他愛ない話をしながらも、ラクシャータの後に付いてきた同じく褐色の肌をした男性研究員から、それなりの厚みのある書類の束を二人は手渡されていた。その表紙には『第13世代ガニメデ型KMF試作機』と書かれていた。ミレイとナナリーは表紙をめくるとそこにはびっしりと操作や説明が記載されいた。
「ラクシャータさん、これ全部みなきゃだめなのぉ?」
うんざり、といった表情でミレイはラクシャータへ愚痴をこぼす。先日にも生徒会の書類処理でこの束の2倍以上の量の書類を見てきたため、軽く書類に対し嫌悪感が起きている。一服吸いキセルから話した口から白い煙を吐き出したラクシャータは、そんなミレイを見ながら口の端を上げてにやりと笑う。ナナリーはそれをみて、ミレイのあの笑い方の元はラクシャータのそれだと、なんとなく思いくすりと笑みをこぼした。
「重要なところだけで大丈夫よ。他の部分は以前説明したのとほぼ変わらないから」
そう言ってラクシャータは、ミレイとナナリーの持つ束から必要な部分だけをごっそり抜き出した。
「新しく追加したのはここだけだから、そんなに難しくはないはずよぉん」
先ほどの束の3分の1ほどに減った書類を見て、心底ミレイは安堵し「ふぅ」と息を吐いた。
ナナリーとルルーシュの母親である、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアがテストパイロットを務め、ミレイの祖父ルーベンが党首を務めるアッシュフォード財団主導で開発が行われてきた機体ガニメデ。首がなくコックピットがむき出しになっているが、実戦配備されても問題ないほどの整ったデザインをしていた。目的は機動力を兼ね備えた兵器としての戦術的価値を保持した運用を開発目標とされていた。また当時は医療関係にも力を注いでいたアッシュフォードは、いずれこのガニメデを医療や介護、事故現場などでも使えるような汎用性を持たせることも視野に入れていた。
しかし開発が順調に行われていた矢先にマリアンヌの急死。これによりKMF開発におけるアッシュフォード財団の発言力は低下し、この研究開発の一線からのリタイアという事態を招く事になった。これを機にマリアンヌの後ろ盾を失い、急激に力を失ったアッシュフォード財団は医療関係からも撤退を余儀なくされ、現在の位置にまで落ちぶれる事となった。
このときのアッシュフォード財団が後援していた医療開発に、ラクシャータ・チャウラーが関わっていたことが縁で、再びアッシュフォードとラクシャータはつながりを持つ事になった。
この時に開発されていたガニメデの研究資料を元に、現在のKMFの構造を分析応用させガニメデベースのKMFとして、ラクシャータの研究チームで独自に開発を行っていた。現在主流となっているサザーランドと旧式のグラスゴーと違い、ガニメデをベースにしているため、機体はサザーランドより丸みを帯びたフォルムになっている。KMF特有な高速移動用のランドスピナーは、展開する前はふくらはぎの部分に収容されており現在のものよりランドスピナー分の横の長さが短くなっている。単にラクシャータがむき出しはかっこ悪いという理由から、このような形に変更されていた。
頭部はグラスゴーやサザーランドのように、無骨なロボット顔ではなくランスロットのような西洋兜のような顔になっている。頭部左耳の辺りから上に伸びたアンテナと左右の肩口から下に伸びたアンテナが、KMFのファクトスフィアと同じ機能を有し、音波や熱源により目標までの距離と数等の情報を収集する。
腕や足の動きをスムーズ且つ最大限に動かすために、胸部と肩と手首から肘までの前腕部、そして膝から下の部部分には、色つきの強化パーツが装着されており、耐久力を強化している。手首から手の甲にかけてはナックルガードが備わっており、これを拳前面に展開する事で武器として使用する事ができ、KMFによる打撃の威力を比較的に向上た。
またコックピットには従来の仕様とは異なり、頭部とコックピットブロックが上に飛び出す仕様になり、飛び出した後はコックピットの操作によりある程度自由に落下位置まで移動することが可能となった。
「ただ、まだ武器の製造が間に合わなくてねぇ……、適当に回収して整備し直した従来のアサルトライフルになっちゃうけど」
ラクシャータは二人が持ってる書類の最後の方のページをめくる。ミレイの方には射撃系の武器が、ナナリーの法には近接系の武器がそれぞれ載っていた。
「この子達の最終完成系、白百合と黒百合までには間に合わせるからさぁ」
そう言いながら持っていたKMFのキーを白衣のポケットから取り出し、それぞれをミレイとナナリーに手渡した。
(うふふ♪キョウトのじいちゃん達からの依頼の子より、この子達の方が先になっちゃたわねぇ)
ピンクとインディゴの2機を見上げたラクシャータの目には、最終系の姿がはっきりと浮かび上がっていた。
(さて次は、あの紅い子を急いで仕上げないとね)
ピリリと格納庫に響く携帯の着信音、見上げていた視線を音の方へ向けるとミレイが携帯を耳へ当てていた。
「もしもし?ミレイだけど」
「ほう、海底の中でも通じるものだな」
電話に出たミレイは、相変わらず皮肉じみているが素直に驚いている電話口のシーツーに苦笑いを浮かべる。現在潜水艦から会場へ向けて電波を受信できるようにアンテナを伸ばしてもらっていた。そのためこの海底の艦の中でもミレイの携帯は電波を受信できている。
「そう言う風にお願いしたからね。それよりどうしたの?」
「ああ、ルルーシュの事なんだが……」
「ええ……、そういう事ね。ちょっと聞いて見るけど」
そう言って携帯電話を少し離し、ミレイはラクシャータの方へ向いた。
「早速だけど、このナイトメアすぐ出せる?」
「あら?もうだすの?」
「今、コーネリアの部隊が…ね」
「ブリタニアの魔女がねぇ…」
少しだけ思案していたラクシャータは、機動テストも兼ねたデータ収集ができるという事も有り「いいよ」と、了解の返事を出した。
「じゃー早速このパイロットスーツに着替えて」
「はい」
差し出されたそれをナナリーは受け取り、続けて受け取ったミレイはラクシャータの指示で、格納庫から一旦艦内の通路へと向かいシャワー室を目指した。
「さぁ、相手はブリタニアの魔女だよ。急いで初期起動行うよ」
ラクシャータはそれぞれのKMFの操作パネルを操作しながら、他のメンバーや整備士達に向けて声を上げた。
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